私は総合病院から精神科病院に転職した田舎暮らしの男性看護師です。私についての詳細はプロフィールをご参照下さい。私が精神科病院に転職してもうすぐ1年となりますが、これまでの働き方と比べて大きく変わった部分があります。今回は、私が現在感じている看護師の精神科病院へ転職するメリットをお伝えしていきたいと思います。
【職場概要】
私が勤務する病院は200~300床の中小病院に当たる規模です。精神科といえば認知症の高齢者を想像する方が多いかと思いますが、アルコールや薬物など、若年で様々な依存症を抱える方が数多く入院しています。今回ご紹介する内容は、あくまでも私が在職している病院と、おそらく一般的だろうと思われる大学病院・総合病院を比較して考察した内容になります。
余裕をもって仕事ができるようになる
総合病院時代は、そもそもの業務量が多く常に走り回っている状態でした。検査や手術、重症者への対応など時間が決まっている業務も多く、優先順位をしっかり練って業務を進める必要がありました。
精神科病院に最初に来て思った事は、時間の流れがゆったりしているということ。精神疾患患者の対応の基本として、安心して入院生活を送ってもらうために看護師も普段から落ち着いて仕事をする必要があります。なので以前のように走り回ることはありませんし、業務内容も過密ではないので空いた時間で委員会などの業務を行う余裕があります。個人的にとてもありがたいのは、休憩時間でしっかり休めることです。総合病院では「検査や手術の時間が迫っているから休憩を早めに切り上げないと!」といったように、気が気でない状態となってしまい十分に休憩できないことばかりでしたが、精神科においては時間いっぱい休むことが出来ます。リフレッシュのために外にドライブやタバコを吸いに出ていく人もいるくらいなので、落ち着いた業務が行える環境だからこそ休憩時間も充実させられるのだろうと感じています。焦って仕事をすると「ミスがミスを呼ぶ」といった悪循環が生じることがありますが、そのような煩雑な業務によるミスは激減しました。業務の抜けがあっても気付いた同僚が教えてくれたり「あそこ抜けてたからやっといたよ」と代わりに行ってくれたりもします。
やはり確実な仕事を行うためには、どっしりと構えて落ち着いて目の前の仕事に集中するという時間が大切だと感じます。
一人ひとりに寄り添った看護ができる
総合病院での勤務を経験された看護師の方なら共感してもらえると思うのですが、多忙な業務に追われて患者さん一人ひとりとまともに会話する時間を確保できずに「これって看護なのか?」「こんな看護師になるつもりは無かった」などと考えたことはありませんか?私は何度もあります。
患者さんと会話する時間の割合はそれぞれの業務の時間配分や看護感によって様々です。最低限の会話だけで済ませても業務としては問題ありませんし、タイムマネージメントの面で見れば会話は最小限にした方が速やかに業務をこなせていて有能な看護師という見方もできるかもしれません。しかし、その看護は本当にみなさんが学生時代から想像していた看護師の働き方でしょうか?理想と現実の差は当然あると思いますが、それでも様々な理由で医療者の助けが必要となった存在である患者さんの心の助けとなるような看護師象を、一度は誰もが持ったのではないでしょうか?そういった看護師を目指せる、またはそれに近づきやすい環境が、精神科病院にはあると思います。患者さんと直接話し、時間をかけて信頼関係を築いていく。疾患の特性として理論的な会話での理解が得られにくいという難しさはあると思いますが、会話やふれあいが大切だと考える看護師には適した職場と言えるでしょう。
プライベートでの人付き合いの勉強になる
精神疾患の患者さんと会話することはつまり、コミュニケーション能力をより繊細に考えることだと、私は考えています。患者さんに「あとでまた来ます」といって、30分経った後に患者さんに「どれだけ待たせるんだ!」と怒られる…。よく聞く話ですし、看護師同士でも同じことがあればイラっとしてしまうことでしょう。この場合は「30分後にまた来ます」など、具体的な時間を伝えておくと相手をイラつかせることもありません。精神疾患の方だと医療者の説明により敏感に反応するので、具体的かつ誠実な説明が必要となります。こういった対応に慣れておくことは実社会においても活用でき、相手に「誠実な人だ」という印象を与えることができます。「精神疾患だから特別な反応をされる」とは考えず、「あの時の説明はここが足りなかったから怒られたんだ」という気づきを積み重ねることによって患者さんからの信頼が得られるコミュニケーションをとれるようになりますし、プライベートでも自然に信頼される人間へと成長することができるでしょう。
時間外業務が激減する
総合病院ではそもそもの業務量が多い上に緊急入院や急変に伴う処置、他科からの重傷者の紹介・転科転棟などがあり、休む暇がありませんでした。必要な書類や本人・家族から聞き取る情報量も多く、入院期間の短縮化を進める動きも活発なため入退院の事務的な処理は増える一方。コロナ窩となってからは感染対策として患者-家族のつなぎ役として荷物の受け渡し等の業務も行う必要がありましたし、患者対応の合間に別の患者家族への対応が必要となるようなことは日常茶飯事でした。しかし精神科病院に来てからは、今のところ時間外業務は激減しています。
当たり前ですが、精神疾患は手術をすればすぐ良くなるといったものではありません。それは内科系疾患も同様ですが、思いもよらないことがきっかけで状態が悪化することがあるため、精神疾患の病態は個々人によって非常に詳しく確認する必要があります。実際、私のいる病院では患者1人当たりの平均在院日数は総合病院(急性期)時代の10倍近くとなっています。入退院が多いと、その対応でも業務量は増えますよね。最近は日帰りや1泊2日で手術をするようなものも増えていますが、精神科ではそれもありません。退院支援についても、精神疾患を持つ方の退院先は家族やケアマネ等とよく話し合って決める必要があるため、急に退院になることは少なく、慌てて準備をしなくても計画的に準備を進める事ができます。また、書類に関しても、最低限の処置しかしない(できない)ためか、必要となる書類もかなり減りましたし、それに伴って家族に来院して頂く必要性やその対応も減りました。
勤務内容もそういった業務が無いことで時間に追われることが少なく、通常業務以外のもの(委員会や係活動)も業務時間内にこなすことができます。これらの業務を勤務時間後や自宅に持ち帰ることが多かった私にとっては、プライベートの時間を確保する上で非常にありがたいと感じられる部分です。それが当たり前、と思う方もいるかもしれませんが、私にとっての当たりまえは以前の働き方であったので、当たり前を疑うことは大切だと感じています。
パートナーと良好な関係性を保てる
余裕をもって仕事ができ、時間外業務が激減することによって以前の勤務状況の中で時折感じていたギスギスする瞬間が解消され、パートナーや家族との関係性が改善したと感じています。
今時、家事は女性がやるものだ!と言っている男性はモテません(笑)。田舎ではまだまだ家事は女性がやるべきだという風習が根強く、実際に総合病院時代に私の身近にいた女性看護師も忙しい業務に追われながらも家事や子育てをこなしている人が多かったように思います。田舎では家業として農業をしている家も多いため、男性は仕事以外に農業も行っていることが多く、代わりに女性は家事を担当しているため釣り合っていると考えられる家庭であれば何も言うことはありませんが、そういった理由もなく男性が女性に家事を任せていてはいずれ関係性は破綻してしまうでしょう。私の妻も、同じ職種(看護師)ですので忙しさは一緒、場合によっては妻の方が忙しい状況です。それでも家事の多くを妻に任せていては、相手に不満が溜まるのは当たり前ですよね。
私の場合は転職したことで時間外業務が激減し、また業務自体も余裕をもってこなせるようになったことで帰宅後のプライベートな時間も活動的に使えるようになりました。そのため、洗濯や買い物など一部の家事は妻が帰宅するまでに終えることができるようになり、家事の面でもお互いに助け合えるようになりました。これは、今後パートナーとの良好な関係性を維持していくために非常に有効で意味のあることたど思います。お互いに助け合うことができ、相手への不満をできる限り減らす努力を続けることは、巡り巡って自身が穏やかに生きていく助けになるでしょう。
男性看護師として頼りにされる
看護師は以前は「白衣の天使」と呼ばれていた時代もあり、また歴史的にフローレンス・ナイチンゲールが有名となったこともあり女性中心の職種です。近年では男性看護師の需要も高まっており、年々男性看護師の割合も増えていますが、現在も多くの病院や施設では女性優位の職種であるように感じます。そんな現状がありますが、精神科病院はそれとは異なる状況にあると思います。
私が現在在職する病院では、看護職の6割程度が男性で構成されています。昔から働いている人に聞くところによると、以前は9割が男性だったとのことでした(!)理由としては、精神科ではせん妄や認知症の影響で暴れる患者さんが多く、そういった方の動きを抑えるためにどうしても最初は力で抑え込む必要があるからです。そういった場面では男性の力は必須ですし、現在でも落ち着かずに暴力を振るってしまう方がいた場合は病棟に関わらず男性職員に応援を要請し、人数をかけてお互いに安全を確保しながら対応を行っています。また、総合病院での女性中心となる看護師の人間関係に疲れて精神科病院に転職してくる方も男女問わずいます。偏見となってしまい恐縮ですが、女性ばかりの職場では派閥や陰口がどうしても出てきてしまい、人間関係に悪影響が出やすいように感じました。近年では働き方改革や女性中心の環境での人間関係に嫌気がさして女性が精神科病院で働く割合も増えており、ある程度男女比で差が無い方が人間関係としては良好だと感じます。総合病院でも誠実に仕事をこなせば信頼を得ることはできますが、若い内から「看護師として、また男性として頼りにされたい。みんなの役に立ちたい」と思う人は、ぜひ精神科病院での勤務を検討してみて下さい!
いかがでしたか?私の体験に基づく偏見も混じった内容になってしまい恐縮ですが、総合病院での想像以上の激務に「こんなつもりじゃなかった」「患者さんに寄り添った看護をする時間がない」といった現状に悩んでいる方、以前の私と一緒です!こういった悩みは、現状を大きく変えないと解消されることは難しく、最終的には院長・理事長・看護部長といった上司の考えを変えるという非常に難しい課題をクリアしないと改善はされないでしょう。そのような業務に自分が上司と呼ばれるようになるまで耐え続ける自信が無ければ、精神科病院への転職という手もありだと思います。決して逃げではなく、より人生を穏やかで充実したものにするための手段と考えましょう。
コロナウィルスの大流行により看護師の業務量の異常さが浮彫りとなり、現在は落ち着きを取り戻しつつあります。しかし、まだ完全にマスクを手放すことはできませんし、いつまた新たな異常事態が起き、それに対応しなければいけなくなるか分かりません。自分を犠牲にすることが多い職業ですが、そのせいで自身が倒れてしまっては元も子もありません。今一度、自分の今後の働き方を真剣に考え直してみましょう。
次回は「総合病院から精神科病院に転職して感じる転職のデメリット」をご紹介します。
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